魚と釣竿の話

ある湖のほとりに、釣り人がいました。
釣り人は、釣りが上手で、今日もよく釣れています。
そこへ、おなかをすかせた乞食がやってきました。
おなかがすいてすいて、もうフラフラしています。
乞食は、「 その魚、一匹でいいから恵んでください! 」

ところが、釣り人は乞食に魚を恵んでやることもせずに、
淡々と釣りを続けます。乞食は文句を言い始めます。

「 何でそんなにたくさんあるのに、くれないんですか? 」

それでも、釣り人は何も言わず、
魚をくれてやることもせずに釣りを続けます。
しばらくして、釣り人は、帰りじたくを始めました。
乞食は、もう体力も気力もつきて、
その様子をじっと見ているだけです。
そこへ、その釣り人が近寄って言いました。

「 はい、これあげるよ 」 

そういって乞食へ手渡したのは、
魚ではなく、釣竿でした。
お腹をすかせてぐったりしている乞食にとって、
それあまり嬉しくないプレゼントでした。
乞食は怒って言いました。

「自分はそんなたくさんの魚を持っているくせに、
こんなに疲れ果てている私に釣竿をくれるとは、
なんて意地悪なんだ!
一匹くらいくれたっていいじゃないか!」

「いいから、釣ってごらんよ」

体力の限界に近づいている乞食には、
自分で釣りをするしか、
今はもう魚を手に入れる方法はないのです。
いやいやながらも、もらった釣竿を手にした乞食は、
釣り糸を湖にたらし、魚を釣ってみることにしました。 

そして、数時間後.. 

釣り人はいなくっており、あれほど魚をくれない釣り人に
悪態をついていた乞食は自分の釣った魚で満腹になり、
体力も気力も満たされ、とても幸せな気分を味わっていました。

「そうだ!うちの弟にも釣り方を教えてやろう!
公園で出会ったじいさんにも教えてやれば、
もうみんなお腹をすかせなくてすむぞ」

そうして、その乞食は、
自分のまわりにいるお腹をすかせている人たちに
釣竿の使い方を教えてあげました。
彼のまわりにいた人たちは、みんな満たされて、
それぞれが自分の力で魚を手に入れることができるようになり、
空腹に悩まされることがなくなりました。

それに気付いた乞食は、思いました。
あのとき、あの釣り人が釣竿じゃなくて、
魚をくれていたとしたら、自分はこうなってはいなかった。

きっと、もらった魚を食べて、その場限りの満足をおぼえ

でも、また次の日にはまた誰かに物乞いをしていただろう。
それが、釣竿をもらって、
自分で釣るということを教わって、
人生が変わった。


私はもう2度と物乞いをしなくてすむ人になった。
それどころか、こうして自分のまわりの人たちが
困っていることも助けてあげられるし、
そのおかげでみんなに慕われるようにもなった。
気付いたら、私はもう乞食ではなく、
ちゃんとした仕事をもち、友人がたくさんいて、
人のために何かをしたいと思えるようになった。

あのとき、魚をもらわなくて、良かった。